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2006年度上期未踏ユース成果報告会に参加してきました

Wed Mar 07 07:15:09 -0800 2007

尾藤正人です。

2/17-19の三日間に渡って行われた2006年度上期未踏ユース成果報告会に参加してきました。 遅くなりましたが、いろいろ面白い成果物がいっぱいあったので、 今日はそれをレポートしたいと思います。 全て紹介してたらかなりの長文になってしまいました。

1日目

スプラインスキャン法による曲線認識とその応用

スプラインスキャン法というのを用いると線を自然に認識して、線の繋がりや流れも認識できるようになるとか。 OCRへの応用等が考えられているそうです。

採択者はaltpaperという紙ベースのデータを自動で認識するシステムを開発している株式会社情報基礎開発で働いていて、 今回開発システムはaltpaperにも組み込む予定だそうです。Altpaperも未踏の開発成果物の一つです。

FileUtils-URI: ローカルファイルにWebコンテキストを付加するためのライブラリの開発

インターネットからファイルをダウンロードすると、 そのファイルをどこからダウンロードしたのかがすぐに分からなくなってしまいます。 そこで、ファイルにオリジナルのURIのメタ情報を付加しておくというのが提案者のシステムです。 オリジナルのURIのメタ情報を付加する事で、 そのファイルがどこからダウンロードされたのかすぐに分かるようになります。

現在メタ情報はディレクトリの中に入っており、 ファイルを動かしてしまうとメタ情報がそのまま引き継がれないという問題点があります。 Rubyのライブラリを用意していて、 そのライブラリ経由でファイルの移動をすると大丈夫なんですが。 また、ファイルをダウンロードした時に自動的にURI情報が付加されないので、 自分で手動でつける必要があります。 使いやすさがもう少し向上すると良いですね。

「あと一歩の勇気」を引き出すコミュニケーションインターフェースの開発

傘連判状というのを用いたコミュニケーションインターフェース。 傘連判状というは全然知らなかったんですが、昔一揆とかを起こす時に、 リーダが誰かばれるのを防ぐために放射線状に署名したものだそうです。

何か議論を重ねる時に声の大きい人の意見が通りがち。 傘連判状のように全員が平等の立場であれば、 コミュニケーションが円滑に進むのではないかというのが提案者の考えです。

作ったシステムは画像上の好きな位置でチャットができるlock-on-chatシステム。 発言者の名前が傘連判状のように放射線状になって表示される。

僕はこういうコミュニケーションツールはWebとの親和性がかなり高いと思っています。 現在Web版は開発中とのことなので、期待したいところです。

P2Pセキュアファイル共有システムにおける新共有機能の実現

唯一の女性採択者。 鍵を用いてローカルのネットワーク上でファイルを共有するためのシステム。 鍵の存在が全面に出てるので、初心者にはちょっと使いづらかったり、 ドラッグ&ドロップでファイルのコピーができなかったりするので、 もう少しインターフェースがよくなって使いやすくなるといいですね。

CPUとGPUを用いる高速数値計算ライブラリ

最近のマシンには高速なGPUが付属しています。 このGPUを描画にではなくCPUが行う演算の代わりに使ってしまおうというのがGPGPUです。 提案者はCPUとGPUを用いて並列計算させることによって、 行列積和の計算を高速に行う事ができるライブラリを作りました。 このライブラリが広く使われるようになって、 いろんな処理が高速に行われるようになるといいですね。

ライブラリが公開されています。
GPUPC

ブックマーク連携型検索エンジン「netPlant」の開発

ユーザのブックマークと連動させる検索エンジン。 こういう視点の検索エンジンって面白いですね。 まだ公開していない現在開発中の新しい検索インターフェースを見せてもらいましたが、かなりかっこ良かったです。 Flashで作られていて、こういうかっこいいインターフェースだと使ってて楽しいですね。

最初ブックマークをただ単純に集めようとしたんだけど、それはうまくいかず。 そこでswimmieというFirefoxのプラグインを作ってブックマークを共有する機能を提供する事で、ブックマークを集めることに成功したそうです。 こういう戦略を途中で変更して結果を出すというのは大変素晴らしいですね。

netPlantは今後事業化を目指すそうです。 若いのに非常に勢いがあります。 今後に期待したいですね。

2日目

SMILES記法を利用した薬物設計支援ツールの開発

SMILES記法というのを初めて知りました。 化学的な物質の構造を表記する方法だそうです。 炭素とか酸素のような原子がどういう風に繋がっているのかをSMILES記法を使って表すのだとか。 SIMILES記法だけを見ても何がどうなってるのかは全然分かりません。 そこで提案者はSMILES記法から可視化するシステムを作成しました。

よくわからないんだけど、いろんな化学物質を可視化して見せてくれました。サリンとかw。 C60もちゃんと表示されてた。

こういう特定の分野の専門家で、かつプログラムが書ける人ってなかなかいないんですよね。 このシステムで薬物設計が格段に楽になることでしょう。

モバイルARと小型センサによるタンジブルユーザインターフェースの実現

最近何かと話題(?)のタンジブルユーザインターフェース。 世の中にはリモコンが多すぎて管理するのが大変。 提案しているのは携帯電話がリモコンになっていろんなデバイスをコントロールすることができるシステム。 携帯電話はいつも持ち歩くので、携帯でできると何かと便利ですね。 タンジブルユーザインターフェースなので、直感的に操作できるものを目指しています。

実際に「動画を流す」「それを別のディスプレイに表示」「別のプリンタに印刷」という流れを、 携帯電話で操作するデモをやってくれました。 携帯電話には無線LANのモジュールがついたNokiaの携帯を使用していて、 日本で同じ事をやるにはちょっと難しい印象を受けました。 未来ではこれが当たり前になるんでしょうか。

初心者を挫折させない、魅力的な3Dライブラリとヴィジュアルシーンエディタ

プログラマがプログラムを始めるきっかけとしてはゲームを作りたいというのが多いそうです。 僕自身はゲームを作ってみたいと思った事は一回もないのですが、 周りを見回してみると結構当たってます。 ところが最近のゲームは3Dをふんだんに使っていて、敷居が高く、 そこで挫折してしまう人がたくさんいます。 提案者のシステムは初心者をターゲットにした簡単に3Dアニメーションを作れるソフトウェアです。

驚いたことにプレゼン資料を全て今回作成したソフトウェアVisual Scene Editorで作っています。 プレゼンを見るとVisual Scene Editorのすごさがわかります。 機能がたくさんあってここには書ききれないですが、完成度が非常に高いです。

実際にプレゼンを見てて、3Dアニメーションをふんだんに使ったかっこいいプレゼンなんですが、 これが簡単に使えるようになればいいなと思いました。 話を聞いてみると、プレゼン用に最適化してものを別に開発することは考えているそうです。 MacのKeynoteがかっこいいと嘆いていたWindowsユーザも、 Visual Scene Editorでかっこいいプレゼンができるようになるかもしれません。

ソフトウェアは公開されていますので、実際に使ってみてはいかがでしょう。
Visual Scene Editor

Spark Project

採択者は現役の高校生!! IT業界でスパークと聞くとSunのSPARCしか思い浮かばないのですが、高校生には分からないんだろうな。

Spark ProjectはFlashでゲーム開発を行うためのクラスライブラリ集を開発するプロジェクトで、 今回はイベントドリブン型で処理をするXelfというのを開発しています。 Xelfの由来は単にFlexを逆にしただけとか。

エージェントという概念があって、エージェントがお互いにメッセージを交換する事によって処理が行われるという仕組みになってます。 そのためオブジェクトが多くできるのですが、DIコンテナを使って簡単に管理できるようにしてます。 またConvention Over Configurationでできるだけ簡潔になるように工夫されています。

Spark Projectにて公開予定。

誰かを感じるウェブコミュニケーション - ブラウジングコミュニケータ「Antwave」の開発

誰かと一緒に同じwebページを見る事ができるwebブラウザです。 とにかく使ってて楽しい!! 一緒に同じページを見ながらチャットができたり、ページに落書きができたり、相手のマウスポインタをバシバシ叩く事ができたり。 誰かがリンクをクリックすると、同じページを見ている人のページもちゃんと切り替わるようになっています。 今回採択されているnetPlantに対応して、未踏ユース同士のコラボも面白い。

技術的にもかなりこった事をやっています。 同じページをブラウズしているときのやり取りは、 多くのデータのやり取りを行うのでP2Pで行っていて、 それ以外の部分の処理にはWeb APIを通してAntwaveのサーバとやり取りをしています。 HTTPにデータを載せてやり取りをすることで、簡単に外に出れないような環境でもちゃんとデータのやり取りが行えるようになっています。

採択者は2chで有名になった上下ジーパン男の映画監督でもあります。 映像が趣味というだけあって、作ってきたデモムービはかなりクオリティの高いものになってました。

思いついた全てのアイデアを集積・管理・公開するWiki型CMS「Ubiki」の開発

採択者が提案するシステムはどこでも使えるWiki型CMS「Ubiki」。 Ubikiはオフラインでもオンラインでもどこでも使えるWikiシステムを目指しています。 確かにこういうシステムがあれば、どこでもメモがとれて共有できるから便利ですね。 残念ながら作ったシステムは完全にうまく動けるところまではいってないようですが、 今後の開発に期待したいところです。

プログラミングを学べるMMORPGの開発

MMORPGを使ってプログラムを学習する事ができるシステム。 MMORPGには多くの人がハマっていますが、そこにプログラミングの演習を持ってくれば楽しくプログラミングが学べるのではないかというアイデアです。 デモでは簡単なRPG上で問題を解く事で次に進む事ができるようになっていました。 採点をどうするかとか、いろいろ難しい部分は多いと思いますが、 こういうシステムでもっとプログラミングの敷居が下がるといいですね。

統合ディスクレスネットワーク基盤システム

ネットワークブートを用いることでディスクレスで複数のマシンに同じシステムを起動させてしまおうというシステム。 ネットワークブートを用いる事自体はそんなにすごいことではないが、 彼がすごいのはこのシステムのために分散ファイルシステムを作ってしまったところです。 ファイルシステムはNBD(Network Block Device)の上に全てユーザランドで書かれています。 ディスク全体のイメージを複数のサーバに分割して持つ事でメモリの消費量を抑えています。 またデータを重複して持つ事で耐障害性も高めています。 僕はこの分散ファイルシステムだけでも十分に価値があるのではないかと思いました。 (というかそっちの方に興味があった) もっと実用性を高めて安定運用できるところまで期待したいところです。

3日目

よりよいコメント記述のためのプログラミング環境

コメントにもっと記述力を持たせようとする試み。 このシステムを使う事で、他言語コメント、プログラマのレベルに合わせたコメント、部分的なコメントが実現できるようになります。 コメントは別ファイルに保存されていて、同じシステム上で開発する必要がありますが、こういう細かいコメントが記述できるようになれば便利ですね。 提案者はEmacsで実装していましたが、僕はEmacsは使わないので、ぜひvimにも移植して欲しいです。

MARS(Mutural Authentication RSS) 相互認証を基盤とした未来型RSS配信ソフトウェアの開発

RSSはデータの配信に広く使われていて、ツールもいろいろ揃っています。 ですが、元々パブリックなデータを配信するのに使われているため、認証部分が弱いです。 提案者はグリッドコンピューティングの研究室に属していて、グリッドコンピューティングで使われている認証システムと組み合わせてしまおうという提案です。 グリッドで使われている認証を通す事で、非公開な情報をRSSで配信できるようにします。

実際に作ったシステムを作ってデモを行ってくれました。 先生が現れると通知が届くというデモです。 グリッド - MARS - Plagger - メール という構成で、 先生が財布をマウスの近くに置くと財布とマウスに入っているRFIDによって検知されてメールが届くようになっています。 こういうところにRSSが使われるなんて面白いですね。

旅する漢字”漢字んカナメ” 漢字学習支援システム

漢字の学習を支援するシステムです。 漢字はたくさんあって覚えるのが大変ですが、漢字をストーリにすると覚えやすくなります。 漢字んカナメは漢字を分解してストーリを自動生成するシステムです。 漢字を入力してしばらく待つと、分解された漢字の一部分がうにょうにょ動き出してストーリが出来上がります。 動く様子は見てるだけでも楽しい。こういう遊び感覚が学習には必要なんでしょうね。 現在特許出願中のようで、実際に手元で使えるようになるのが楽しみです。

GPUPPUR: 汎用高速3Dグラフィックスライブラリの開発

3DCGの描画処理にはラスタライズ法とレイトレーシング法があるそうです。 ラスタライズ法は高速に処理できるのでゲームとかのリアルタイムCGに、 レイトレーシング法はリアルな3Dを生成できるが計算に時間がかかるので映画等のオフラインCGに使われています。 提案者の汎用高速3Dライブラリ"GUPUPPUR"では、ラスタライズ法とレイトレーシング法を組み合わせたハイブリッドな3Dライブラリです。

実際に作ってみて動かしてみると、結果的にはOpenGLよりも遅くなってしまったとのこと。 ラスタライズ法の計算に使われるGPUは広く普及していますが、 レイトレーシング法の計算に用いられるプロセッサにPPUというのがあって、これがかなり高価だそうです。 PPUが広く普及するようになれば、GUPUPPURを使う事で現実的な速度今までよりもきれいな3Dを描画できるようになるかもしれません。

アニメ表現におけるアーティスティックな陰影コントロール法

トゥーンレンダリングという技術があります。 写実的な描画ではなく、アニメのように陰影のはっきりした描画を行うのがトゥーンレンダリングです。 トゥーンレンダリングでは3Dの物体に光を当てる事で陰影をつけるのですが、 実際にやってみるとうまく影がつかない場合があります。 提案者が作ったのはトゥーンレンダリングの処理を行う時に、手で陰影のつける部分を変更して、 光源の位置を変えてもちゃんと描画されるようにするシステムです。 Mayaというプロが使っているシステムのプラグインとして開発しています。 今後、実際の映画製作に使われる予定ということで、早ければ次のポケモンに使われるそうです。

身体イメージを利用した装着型擬人化ディスプレイロボットの開発

ロボット技術は非常に高度高価だが実際にできることが少なく、人間が期待する事とのギャップが大きい。 なので、ロボットの部分を一部分に限定すれば現実的なものが作れるのではないかというのが提案者の考えです。 提案しているシステムは手や目などの一部分を作って、いろんな物を擬人化してやろうというもの。 デモでは電子レンジに手や目がついているものを見せてくれました。 女性が見ると「かわいい」と言う人が多いそうです。 こういうアプローチは面白いですね。

まとめ

未踏ユースでの成果報告会についてまとめてみました。 未踏ではいろいろ面白いプロジェクトがいっぱいあります。 プロジェクトだけでなく、未踏を通じていろんな人との繋がりができます。 みなさんも未踏プロジェクトに応募してみてはいかがでしょうか。